side C/written by Miki/

 
:plot
〈高校時〉
普通の女は媚びて来るけど華は媚びては来ない、それが初めの感想 でした。
見た目は好みではありませんでした。もっと可愛いきれいな子は沢山いるので病気っぽい華に積極的に行く必要ないので。
何で興味を持ったのかは高良(※この字の表記で書いて行きます) と付き合っていたからです。つまり最初に興味を持ったのは華じゃ なくて高良の方です。
理数科なんだから数学が得意な人しかいないわけですが、高良の場合は飛び抜けてました。所要時間15分の問題を3分位で解くとか 。普通ではなかったからです。女に興味無さそうな割に中ニから付 き合ってる彼女が普通科にいると言うので見に行ったら病んでいそ うな子が出て来た、それが華でした。
高良に敵う箇所があるとしたら恋愛経験値しか無さそうでしたから 、それで華を掠奪したら面白い事になりそうだなと思いました。実 際は行動に移すまでが大変だったのと時間かけて労力かけて何やっ てんだろうと。憐憫でした。自分へ。華は媚びて来ない子だったの でイライラしました。年下に見える見かけですが男なんてバカだという目をしていました。
その理由としては意外にも華が注目を浴びてたというのが挙げられ ます。理数科のアイドルとまで言うと言い過ぎですが華みたいな女 、つまり男とやるのは遊びだって雰囲気を出してる子に免疫が無い のが真面目に生きて来た優等生の集団です。
あの頃の女子高生は時代背景的に最強です。華はファミレスに毛が生えた程度の店でウェイトレスなんていう当時では尻の軽いバイト をしていたので尚更言い寄る年上の男がいたはずなので調子に乗ってて当然だと思います。飲食のバイトはヤリ目。 大学生の男はその為に面接に行く位です。
高良との中学からの事情は同じ中学の出身者から聞きました。詳しくないですが高良の家が金持ちでボランティアで問題ある家庭にい た入江(華の旧姓)を引き取ってるという様な話でした。高良が将来的に親の会社を継ぐから入江は上手い事やってるんだと聞きまし た。その時は、なるほどねとしか思わなかったです。華の事情なんて想像もつかなかったから。
華のバイト先に行ってみて出待ちした事がありました。そこでやっと華のチグハグさに気付いたかなと思います。八月の夏休み中で華 の髪がほぼ明るい茶髪になっていたのと当時流行ってた網のようなシースルーのロングカーディガンまでは分かるのですが華は肌を露 出せずキャミソールじゃなく薄いカットソーを中に着ていた、制服だとスカートが短いしブラウスから黒いブラが透けてるみたいな女 で何だそれと彼氏である高良じゃなくても思っていました。格好が受ける印象としては変だなと思いました。普段の露出が抑えられて て。一定していないとか安定していないとか言葉で言えばそうなります。足下だけ素足、金色の先が細いヒールでそこだけが変に艶か しい状態でした。
隣にバイト先の頭の悪そうな男が張り付いていました。夜だったからか華はバカ笑いしつつそいつと外でキスしてたのでまた、なるほどねと思いました。
高良が知らない所でこれなんだから付け入る隙は余裕だろうと思っていたのですが、苦戦しました。頭が明らかに軽そうな男とは遊ん でるのに、こっちには見向きしないので年上が好きなのかもなと思いました。それか、 バカが好きなのかと。華自体がそれ程頭の良い女ではないから。高良の友達だから警戒されてるんだろうと思って高良の事は嫌いだか ら大丈夫と言っておいたのですが「高良の悪口を言わないで」と泣いたりする一面がありました。だったら浮気してるお前は何なんだ よと思いました。それを言ったら「浮気なんかしない。していない」ときっぱり強目に言うから結構図太いんだろうなとも思いました。
最初に華を一気にやってしまおうと思ったのは、これらの経緯があ ってこれ位は絶対軽く流せる女だと踏んだからです。事実その後周 りの誰にも何も言われず二回目以降は華が待ってる様式でした。 それも高良の家で。だから図太い女なんだなというのは当たっていました。別に誰かに何か言われても華が誘って来たと言うつもりでした。
それは本当にそうで並んで座った時華がこっちの体にしかも膝や腿の際どい位置を触って来た時が二回有りました。学校で。どういう つもりか知らないけどやっても良い合図にしか俺には取れませんでした。
最初のその時は高良を呼んで泣いていたのでヤバいかなと思ったけど高良は看過しました。高良が何を考えていたかは今も分からないですが、その時は高良の趣味なんだと理解した気でいました。彼女を他の男に襲わせて楽しむ様なタイプなんだろうなと。だから高良みたいなのは嫌いだと言ったのに華は高良について意見すると直ぐ泣きました。泣かせる材料としては高良の話題は秀逸でした。完璧な様な高良も一つは歪んでいて安心しました。
華をラブホに連れて行っても、それに気付いていても高良は何か言って来たりはしませんでした。案外二人で後から「間男プレイ」に ついて話してるんじゃないかと思ったりもしました。
華が本当の意味で病気なのかと感じたのはエッチ中に固まったり無表情にいきなりなったり気絶したり、かと思えばAVでしか見た事無い体位をして来たり書けませんが攻撃の様に色んな事をして来たので途中でこっちが怖くなったからでした、が、それが面白くて高良から本気で取るか迷ってもいました。取るのは簡単そうでした。 付き合ったら付き合ったで無理だなとは思ってもいました。彼女にして上手く続くタイプじゃないです。華は。セフレで丁度いいかセフレにするにも危険なタチだと思いました。つまりはその頃の華は ヘビーなビッチのメンヘラでした。
高良は手に負えない女が好きなんだと思いますが、よくこんなのと暮らしてるなと感じました。暮らしてるんだか飼ってるんだか何に しても親を巻き込んで周囲を騙して舞台を整えて高良は華を支配していました。華は高良に見た感じは従順、裏で他の男に尻尾振って 高良すら騙し切ってる様でした。高良は狐に化かされてる図式です 。二人の話は見る人によっては美談かも知れません。俺の様な世俗 的な人間から見ればそれはどうだったのかなと疑います。高良はかわいそうな家の子を欲のまま囲い込む形だったと思いますし、華は 高良の好意や高良の親の厚意を最大限に引き出してたんじゃないかと思えるから。華が放っておけない見かけなのは認めます。小さい し細いしあの頃は殊更可愛い声で喋ってていかにも男に甘え慣れてる感じでした。それも何か変な風に。自然に見えて不自然、不自然 だけど不愉快でもない。されども怖い甘え方、怖いというのは吸引力がしっかり伴っていたからです。今の華とは違います。 今の華はもっと普通っぽいです。普通の振りが上手くなったのかなと思います。意識してるのかまではわかりませんが。
華を当時俺が好きだったかどうかで言えば、それは好きでした。華といると体が軽くなる感じだとか楽になる感じはありました。嫌な 事は嫌な事として身の回りに多かったけど華といると忘れてられたので。華は話をじっと聞いてくれたのでこっちの事も嫌いじゃなか ったはずです。
高良と意見が割れた日。割れたといっても話し合いをしたわけではないですが急に高良がもう家に来るなと言って来た為それまでにな りました。華には近付けなくなりました。 高良には利用されただけです。こっちも楽しめたのでそれでもういいと考えてそれからは無かった事に数えました。この件に限らず生きていく上で無かった事にしておいた方が良い事だらけだと思います。
華がその後割と直ぐ学校を中退しました、高良に事情を聞こうにも塞ぎ込んでて無視されました。華が自殺した噂も流れました。どう しようとかは考えませんでした。華とも高良とも合意だったので。 俺が華を好きだったにしても三角関係の絡れで華がどうにかなった って種類の事件にすらなってなかった様なので。誰かに問い詰められていたら言い訳が立つから不安はありませんでした。 自殺していたとしても、なるほどねで済んでしまったと思います。 あれはレイプの演技の合意のプレイでした。高良も予め納得していたはずです。ただ華とはまたちゃんと話をしたいとは思いました。 情報が少な過ぎました。華に直接的に家の事を聞いても答えなかったから。高良を本当に好きで付き合ってるのかも聞いたけど最後まで答えが無かった、高良とも話をしたかったけど高良は前提として俺と率直に話す事を考えていなかったと思います。高良の目に最初から入ってない状況でした。高良が見ていたメインは華だけで他の人間は料理の材料です。
華がその頃の事を責める考えだったら俺らはその後結婚していません。言い訳にしか聞こえないでしょうが当事者の一人としては華を 好きな事を高良に利用され、巻き込まれたと考えています。
〈成人後〉
同窓会で華と会った時、他に付き合ってる人はいました。付き合いと言ってもセフレと大差無い感覚でした。だからフリーだったとします。周りが結婚して行くんで焦りは多少有りました。三十過ぎて結婚してなければ人格に問題が有る、そんな風潮だったので。
華は高校の時と変わらない顔をしていました。
----────以下記述無し

 

:side C-Teens

初恋は中一、十三才になる直前、五月。相手は塾の講師だった。 呼び名を朝田さんとする。
正確に言えば講師ではなく講師の補助、事務員だったのかもしれない。塾の社員ではあったから管理業務だったのか生徒の進路指導と 私生活の悩みの聞き取りなどもしていた。朝田さんは二十七才と聞いていた。年齢は悪びれず聞いてみた。
俺は軽い気持ちで家が気持ち悪いと伝えていた。母が気持ち悪い。 妹が気持ち悪い。父はマシだけど尊敬出来ない。早く大学生になり たい。東京に出たい。東大は無理だと分かるので早稲田か慶應。 人文は暗いから嫌だ。
朝田さんに話しかけてみた理由は言うなれば美人だったから。顔が好きだった。スーツがいつもベージュ系で明るい色で顔色に合って いた。そこだけは明るく見えた。ストッキングを履いている脚がやたら色気有る雰囲気だった。
逆に言うと下品だった。気安い喋り方だったので安心感は有る。何回か授業後に話してたらメモを貰った。携帯(当時のPHS)番号が書いてあった。長く話していると他の社員に叱られる/土曜の夜九時からなら電話出来ると言われた。
その週の土曜の夜九時に塾と家の中間にある駅近くのマックを指定されて会った。朝田さんの車の中でキスから教わった。教えてあげ ると言われたので断る理由も無い。
小学生の間にやらされていたら引いたかもしれない、又は傷付いたかもしれないが中学生でラッキーだった。興味があったから。朝田 さんは頭が弱くて避妊しなくて良いとも言っていた。〈O君の子供なら欲しい〉とか言われてそのバカさ加減に鳥肌が立った。次の瞬 間には笑っておいた。
コンドームの使い方を覚えたのは高校に入ってからで外出しを覚えたのは大学に入ってから。中学の間に付き合った女子には全員にゴ ムを買わせて着けて貰っていた。自分から買ったのは高校に入ってからだった。こっちからやる事じゃないと思っていた。
朝田さんとは高校卒業まで付き合い続けた。会うのは年々減っていった、同時進行で中学時代に付き合ってた女子達は後輩先輩同級生 に限らず全員面倒臭かった。日常会話なんてどうでもいいからやれれば良い。こっちから近寄って行き断られた事は0だった。逆に告 られたら全員OKした。朝田さんに〈O君は顔がかわいいからイケる〉と言われていたのでそんなもんなんだろうと思っていた。世の中の男女関係は、まずは見てくれが高いシェアを占めて始まってい る。
朝田さんを初恋と言ったが人を好きになる感情とただ遊びたい感覚の区別はついていなかった。
狙っていた進学校の理数科には合格した。入学後の試験の内容はおかしかった。数A数Iの内容が授業開始前に盛り込まれてる上にしかも応用問題しかなかった。 生徒は塾に通って予習している前提なんだろう。五十点満点中四十点以上で合格とされていた。ギリ合格だったがこの先の試験がそこそこプレッシャーに変わった。 満点が二人いてそれが高良と栗野だった。
二人は入学直後から意気投合していた。二人と仲良くしておいて損はない。ノートを借りたり出来るから。栗野のノートはメモ帳同然 だったが高良のノートは字の読み難さを除けば綺麗だった。
栗野は女に興味が無いと言った。AVも観ないそうだ。性欲と食欲は勉強に向けた方が無駄が無いと意味不明な事を言っていた。 修行僧の様な奴だ。結婚もしたくないとか言っていた。国境なき医師団に所属したいというご立派な目標を持っていた。高良は栗野の話を聞いてるだけで将来の展望を教えてくれなかった。 医者にはならないとだけ話していたから共感した。俺も医者にだけはなりたくない。酷務だ。
高良には彼女がいた。普通科にいて同じ中学出身、初めに見かけた時はおとなしそうに見えたが中身は全然違う女子だった。 どうしてあんなのと付き合ってるのか疑問を覚えた。別に可愛いわけじゃない上何か持病がある様に見えた。だが痩せてる割りにはエロい感じがした。
話しかけたら適当に挨拶を済まされたから気になって来た。華ちゃんと呼んだら馴れ馴れしく呼ばないでと言われた為そう呼ぶ事にし た。
華ちゃんは調べたら調べていく程変な生き物だった。肌の色が病気の色だった。腕を掴んだら細過ぎて怖かった。高良がいない時に華 ちゃんに触った。睨んで来たが背が低いから見つめられた位にしか見えない。
高良の家に暮らしているらしい、何だそれと思い調べた。高良と華ちゃんの出身校の人に聞いた。
-あいつらは付き合ってるというか同棲してる/高良の実家の上階 が丸々高良スペース/入江(華ちゃんの旧姓)が高良の親に気に入 られて許嫁になったとか聞いた/高良の家は〇〇(高級住宅地) の中でも豪邸/入江は玉の輿狙い/入江は荒れた家の子供らしい/ 親がいないからって高良の親が同情して世話してるらしい/高良の親はキリスト教徒。-
だいたい合点がいった、卒アルを見せて貰ったら高良は生徒会長で輝かしい姿の写真が載っていた。華ちゃんがその隣をうろうろして る写真がいくつか見つかった。
俺は国語が嫌いだ。だが上手い文体はまだ分かる。華ちゃんの卒業文集に書いてあった人生が一冊の本だとかいう言葉の綺麗な書き方 であながちバカでもないんだなと思った。普通科だが。
高良は中間考査でぶっちぎり一位だった。全科満点取る奴が高校でも存在するのかと思っていたら存在していた。 栗野ですら二点落として二位、二点しか落とさない奴もこの世に存在するのかと思っていたら存在していた。俺は十四位だった、これでも平均点よりはだいぶ高い。
普通科の奴らの成績なんか気にしてなかったが華ちゃんは古典と現国の点が高良に並んでいた。学年と教科ごと成績順が掲示板に全部 貼り出される。普通科の生徒はごくごく稀で文系科目のみ理数科に下剋上する事もあるそうだが華ちゃんの面白い所は数学と化学が0 点近い所だった。それで何か文句あるかって顔だった。笑える。教科担任に呼び出されても無視してバイトに行くと聞いた。非常に笑 える。
高良は全てに於き動きが生真面目そのものだった。その高良がアレと付き合ってる。これも笑える。
あいつら本当にやってんの?と思っていた。華ちゃんは処女なわけ無さそうに見えたから高良で喪失したんだろうなと思った。 もったいない。意外と高良が変態臭いとは思っていた。 その勘は後々に当たる。
俺は朝田さんで一生通すつもりが無かったので他校の友達ネットを 駆使し早速一度目の合コンを開催していた。直ぐ彼女が出来た。二 度目の合コンで二人目の彼女が出来た。ダブルだが学校が違うからバレない。
彼女、AとBはどっちも処女だった。中学の頃の歴代の彼女も九割処女だった。でも面倒だから優しくなんかはしない。「優しく」 が分からない。どっちにしろあっちは痛い様だから早くやった方がいいと思っていた。処女じゃなかった先輩の女はマシだった。下着が子供って感じの後輩とか下着が汚い同級生とか毛深い女子は無理だった。無理とは言えどやってから別れたが、
殆どの女が無言でマグロだったからつまらない。挿れる時だけ騒ぐからうるさい。うるさいけど面白い。
AとBには一応形だけ優しくと考えて優しくしておいた。付き合っていたのは夏休みまで。どちらも教えてもフェラも出来ない。朝田さんはしてくれるから別れる選択肢は今の所は無い。
高良に何かの話の流れで華ちゃんがフェラしてくれるか聞いた。向こうから毎日してくれると聞いて驚いた。理解し難いのは「かわい そうになって来る時が有るからなるべくさせない」と高良が言った事。意味不明。
高良の家はカトリックだと聞いていたから多分高良は自罰と自虐的なんだろうと思った。教育熱心と言えば聞こえが良いけど教育が厳 しい家なんだろう。家と或る面では同じだと想像していた。
友達には今まで家の事は話していなかった。朝田さんには話がし易いから話した。高良には少し話した。何回か家にも連れて行った。 家で犬を飼っている話をしたら高良が見に来た。高良は公正な目で家の様子を見たのではないかと思っている。
父親はその時期大阪に単身赴任していた。本部長か何かのポストだった、家に帰って来ると威張り腐った態度だったが俺は気に入られ ていたから特に何でもない。問題は母親と妹だった。
こいつらはそっくりだった、劣等感が。卑屈。
高良が来た日は窓を妹が割った翌日で業者が窓の修理に来ていた。 ついでに妹がよく窓を割る話をしたら高良は無言だった。それでし ばらくして「妹が何で窓を割るのか考えた事が有るか」を聞いて来た。説教臭い言い方じゃなく疑問を投げて来た、そんなもの考えた 事は無いし考えてもどうにもならないと答えた気がする。
思えば母親も皿を夜中によく割っていた。不注意じゃなくわざと割っていた。ストレスが溜まっているんだろうと子供の時から思って いた。父親は母親が皿を台所の床に叩き付けて割っていても無関心だった。
妹は母親にまとわりついて泣いていた気がする。今思うとかわいそうな部分も有ったのかも知れないがよく分からない。 家族に限らず俺は人の心情がいまいち理解出来ない。
母親は昔から問題集を毎週買って来た。それで一日で一冊は片付けさせられた。簡単な問題しか無かったが面倒だった。幼稚園から帰 って来たら問題集をやっていた思い出が残っている。終わらないとおやつを食べさせないと言われていたし空腹感が苦痛だから片付け ていた。逆に考えれば問題集さえ終われば母親の機嫌は良くなり望んだ物が与えられた。小学生になると与えられる物はおやつの他に ゲームが加わり中学生になるとゲームに加え金が貰えた。服を買いに行くと言えばその度に二万くれた。だから中学の時点でラブホに 入っていた。塾は友達と彼女が増えるという観点で楽しかった。
成績が下がる事は高校入学まであまり無かったが実力テストと定期 テストの質の違いを母親が理解していなかったので迷惑だった。実 力テストは入試に擬えているから広範囲、定期で四九0程度取っていれば四八0点台に点数がどうしても下がるのが普通。母親はそれ が何度説明しても分からないらしく実力テストの結果が出ると成績 が下がったと思われ真冬に風呂場で水をかけられた事が有る。真夏 に車に閉じ込められてチャイルドロックされた事も有る。普通にインパネで解除して出たけど、この例を取っても母親はバカだった。
それを高良に話したら気の毒そうな目で見られたが高良は実力テストでも満点しか取れなかったそうだ、その意味で気の毒がられたの か。
高良の家にもよく行く様になった。お噂をかねがね聞いていた通りで、でかい家だった。こういうのを瀟洒な家って言うのだろう。
高良のお父さんには会わなかったがお母さんには会った。温和そうで羨ましかった。土曜に行くと食事が出たのでその後塾に行くのに 好都合だった。
華ちゃんが毎日いるのかと思っていたが毎日はいなかった。今バイトに出てるとか友達とカラオケに行ってるとか友達の家に泊まりに 行ったとかが理由だ。いたとしても俺がいる部屋には来なかった。
高良の家は本当に広かった。一階はリビングと庭しか見なかったが 二階は何室かありトイレや風呂も有った。リビングに宗教画と十字 架が有ったから違和感があったが外国の家の様な印象を受けた。 床が大理石のトイレを初めて見た。冷蔵庫も有ったが何でなのか二 階のは使っていなかった。二階の一部分が図書館の様になっていた 。高良の部屋は見たが用事が無いから入らなかった。華ちゃんの部屋も有った。他人の華ちゃんの部屋を用意して家具まで揃えたらしいから高良の家は相当余裕が有るんだろうと思った。
高良はプレステやパソコンに夢中になる事が無い様だった。多少は遊ぶとは言っていた。自由に借りる事が出来たから使った。三時間位は 平気で時間が過ぎて行く。高良は別の部屋で勉強していたり華ちゃんの部屋にいた。
華ちゃんがいる時に二人で華ちゃんの部屋にいたから、つまりはやってるんだろうなという時があった。高良は何かのアピールをして いた様に感じた。物音がしたとかじゃないが雰囲気で分かる。
その頃は朝田さん以外に一個上のDと付き合っていた。Dも残念ながらフェラは出来なかった。その前に少し付き合ったCはニ個上だ からしてくれたけど下手だった。華ちゃんは出来るんだから高良は最初の同い年の彼女にして貰えてラッキーだと思った。
華ちゃんがいる日で高良が華ちゃんの部屋にいない時、華ちゃんの所に行ってみたかったから行って部屋に入ってみた。高良の意図は 分からないが気配で、こうなる様に仕向けていると感じていた。華ちゃんは制服のままだった、足を投げ出して座っていた。ブレザー は着ていなかった、靴下を履いていなかった。もうこれは行けるなと思った。
肩が薄くて首の辺りを掴んだら直ぐ倒れた、驚きの表情もしてなかった。良い匂いがした。女子はみんな柔らかい良い匂いがするけど 華ちゃんのは特に息が良い匂いに思った。目を閉じていたのでキスしようとしたらそこだけ嫌がられた。何で嫌がられるのか分からな い。高良が良いなら俺の方が良いと思うけど。他の女子で嫌がられた事ないし顔なら高良より俺の方が良いと思うんだが。 もう面倒臭いから足だけ見て触って下着だけ脱がせた。上半身寄りに乗ってたから肺が圧迫されたのかもだが全然嫌がってもなかった 様に思う。胸がでかいわけじゃないから省略した。せっかくだから少しは触ったけど触ったら高良を呼ばれたので一時的にストップし た、高良は思った通り来なかったからラッキーだと思った。高良はコレ。つまり華ちゃんを自慢したいからやらせてくれるんだろうなと思ってもいた。
そこからは何か男受けするパンツだなとかしか感想が無かった。ピンクのリボンが目立つやつだった。けっこう濡れてたし直ぐ入って 後先は考えてなかったけど中出しした。後でヤバいと思った。華ちゃんは直後に風呂場へ直行したので大丈夫かなと考えた。華ちゃん はそれから何も言わなかった。
高良とその後で顔を合わせたが何も話さないで帰った。高良は確実にやったと分かっていたと思うのだが何も言わなかった。 もしかして「どうだった」かを聞かれるかなと思っていた。趣向としてやらせてくれたかと思い。
後から色々考えて高良は華ちゃんと早めに結婚したいんだろうと結論を出した。華ちゃんは授業をサボりまくっているから進級が難し い、ダブったら学校を辞めるんじゃないかと予想した。そんな人はこの学校にいないから居づらいだろう。妊娠したとしても辞めるだ ろう、それで高良が十八になったら二人は結婚出来る。
高良は傍目から見ても華ちゃんに手を焼いていた。先輩達は華ちゃんが尻軽だと噂していたが校内では華ちゃんは浮気していなかった と思っている。バイト先へ華ちゃんを二回見に行った事が有るがバイト先の大学生かフリーターとはデキていると見ていた。仕事中に その大学生だかフリーターは華ちゃんの髪を触っていた。華ちゃんの方は表情が変わってなかったので浮気なのかセクハラなのかは知 らない。
学校で高良は今まで通りだった。何考えてるか今まで通り分からなかった。日常会話や授業の話を今まで通りしていた。華ちゃんの話 題だけは流石に避けた。高良の動向が掴めないからだ。
高良の考えは掴めないままだが高良は家に来て良いと言う。華ちゃんに学校で話かけるのは極力は避けた。華ちゃんも何を思っている か分からない顔付きだった。
高良の家に行くと紅茶を何が良いか聞かれた。小花模様の青い陶器ごと置かれて自由に部屋を使えば良いと言われた。 パソコンもゲームも有るし勉強も出来る、高良に課題について質問すれば懇切丁寧に無表情だが教えてくれた。 塾に行く必要が無くなるレベル。俺が高良の彼女になりたい位だがそれは考えた瞬間嫌だと思ったけど。
華ちゃんはその日もいた。高良は高良の部屋に行った。華ちゃんの部屋に行くと開けてくれた。また制服だったが今日はブレザーを着 ていたし靴下は履いてた、その日の華ちゃんは多弁だった。 こんなに喋る子なのかと驚いた。一度やった男には饒舌なのかと思 い話をした。「ミキ」と呼ばれたからまた驚いた。一度やった男は彼氏扱いなのかと思った。頼んだら、してくれると言うから少し緊 張した。華ちゃんは「立ってて、座らないで。 ベッドには近付かないで」と命令して来た。かなり強い声だった。 言われたままにした。
上手かった、朝田さんより上手かった。直ぐ我慢出来ない状態になったらスピードを上げられた、華ちゃんが朝田さんと違ったのは音 を立てて呑んだ所だ。それは初めてだったから恥ずかしい気持ちになった。高良はこれをやられてるのかと思った。それなら華ちゃん を家に置くようにするだろと考えた。やらせない様にしているなん て絶対ウソだ。
華ちゃんは「じゃあもう帰って」と言って来た。最後に「せっかく履いてなかったのに。残念」と言ってスカートをめくった。 ノーパンだった。改めてよく見ると脱毛してるのでなく華ちゃんのはまだ陰毛が無い状態だった。高良はロリなのかと合点がいった。それより白い指に細い血管が浮いてて指の動きがエロい、華ちゃんは何もかもが何か変な具合にめちゃくちゃだった。この後で絶対に 高良とやるんだろうと思った。
他の日にラブホ行こうと誘ったら黙って付いて来た。その時は全然喋りはせず黙っていた。華ちゃんは気分屋の様だ。ラブホは初めてじゃない様で部屋を勝手にチョイスしていた。部屋に入ったら急に小さい声で「脱ぐ?脱がせてくれる?脱がせて」と言って来た。 それだけで後は喋らなかった。スカート脱がせたら華ちゃんが急に白目を剥いた状態になり焦った、が直ぐに元通りになった。 一瞬萎えた。でもラブホ代かかってるしと思った。喘ぎ声がでかかったので取り戻した。こんな分からない人は初めてだ。
気付くと毎日華ちゃんの事を考える様になってた。昔は朝田さんの事をよく思い出す毎日だったから二回目のちゃんとした恋愛なんだ ろうという事にした。だが華ちゃんは高良の彼女、今の所。
高良の家の外で可能な限り会いたかった。高良が同じ部屋にいなくても見張られている感覚がしていた。
華ちゃんは子供の様な部分があった。UFOキャッチャーで取ったぬいぐるみをあげたら喜んでくれた。高良によると華ちゃんは何か 食べる時に食べて良いかどうかしつこく聞くそうだ。俺があげたプリンや何かはパッと開けて食べていた。だからつまり高良にはそれ系の演技か何かしてたんじゃないかと思った。食えない演技とか。 だが華ちゃんは別の日だと全く食わなかった。それに食べて良いか本当にしつこく聞いて来る日も有った。しかも近くで見たり触ると病気のバレリーナか何かの痩せ方だった。新体操部の人と付き合っ てた事が有るがこれよりひどくなかった。それより段々と頭の回線 が弱い変な子なのかなと思って来た。しかし如何せんエロかったの でこの今の関係から離脱する気は起きなかった。
高良がしてない事をしてみたかったが高良は何でもしてそうだった 。中ニからだとニ年位は付き合ってるんだろうし華ちゃんは高良の 家に公認で泊まってるんだから。高良の親もよく許すもんだと思っ たが高良の平時の姿は真面目な優等生でしかなかった。親は少なく ともこの県で一番頭が良いだろう高良が華ちゃんに変な事してるな んざ思わないんだろう。華ちゃんに色々聞いてたら華ちゃんがプリ ンを食べながら「高良のおしっこなら飲んだよ」 と言った事が有る。だから勘は当たっていた。
高良が卓球の部会に出てる時を狙って図書館に行った。華ちゃんは 図書館か保健室か屋上のどこかにいる子だった。図書館は考査前じ ゃなければ人はいない。図書館でやるのもスリルが有りそうだが高良が来るだろうから止めておいた。体育館倉庫内から外に出る抜け 道を先輩が喫煙所にしているのは知っていた、変な造りで一畳半程 度のスペースがいくつか区切られていた。そこに華ちゃんを連れて 行った。
華ちゃんは寒いと言っていた。一回どうしてもやってみたかったアヌスファックがこの子なら試せるよなと思っていた。高良がやった かどうかは聞いたけど答えてくれなかった。やってはみたいがやり 方は知らなかった。なかなか入らないしこっちも痛かった。唾液だ とあまり活油剤にならない。華ちゃんが初めて苦しそうだったので 今までで一番興奮した、どの今までの子より。破壊的な事をやりた かったんだと持っていた性癖にようやく気付いた。 女子が弱いってのは知っていた。壊せるのは弱いからだから仕方な い。
引き抜く時にこっちも傷が付いた。こういうもんなのかと思った。 華ちゃんはずっと泣いていた。それで唇や指を爪で傷付けて声を押 さえていた、血があちこちから出ていた。やってしまったらかわいそうになった。でももう仕方がない。
高良からはそれでも何も後から言われなかった。高良も同じ様にやってるんだろうと思っていた。華ちゃんを呼んで三人で部屋にいる 時に華ちゃんを触ってみたが何も言われなかった。 だが陰湿な目線で高良は見て来た。監視する様な目線だったがあの 目が何を言いたかったのか今も分からずにいる。三人であのままや るのかなと思ったが現実的には色々問題が有り、俺が嫌だった。 高良の方がでかかったらどうしようとか。別に見たくないけど。
終焉はいきなりだった。寝ていた華ちゃんの手を引いてこっちに引 き寄せたら高良に止めろと言われた。 華ちゃんはあの時確か寝ていたと思うのだが高良は「華が不安定だ 」とか「これは失神だ」とか言っていた様に思う。寝てる様にしか見えない、華ちゃんは学校でもよく寝ていた。言われてみれば息の 仕方が早かったけどそれで過呼吸を起こしたんだろうか。不安定というものはどこからがどう不安定なのか分からない。華ちゃんに関 しては特定出来ない。どれが平常か元々知らない。高良が何を気にしたのか知らないが「そんな扱いをするならもう来るな」 と言われた。優しくしていればOKだったのかも知れない。俺は優 しくやっているつもりだった。高良とケンカしても多分絶対勝てないのでもう無理だなと悟った。だいたいがケンカする仲でも無い。
これが高一の秋までにあった話だ。

 

: side C /mid twenties
高校、大学と切れ目無く色々な人と出会えては別れた。大学が全盛期だった。一日に四、五人とデートする時が有った。その四人だったか五人と一日で全員やったわけじゃないが病気と言われればそうなんだろう。恋愛依存だのセックス依存だと言われた。 大学の頃の高良に。
高良はあっさり東大に行った。高良は生物化学をやりたかったらしいが経済の方が入り易いという理由で文系に転向した。東大理I.II類の偏差値と経済の偏差値は同じなんだがやっぱり親の会社を継ぐ為なんだろう。真似したわけじゃないが俺も経済学部を目指した。数IIIを使うから経済は強ちガチの文系というわけじゃない。だが卒業のし易さまで考えたら経済の方が楽そうだった。理系は実験が多いから面倒臭い。数学科か理論物理学も考えたがそれらが別に得意なわけじゃない、好きでもない。博物も地学にも興味が湧かない。経済ならまだ潰しが利くかと思い。
慶應の経済も東大文科II類と同程度の偏差値だ。高良は高校時代あれから気が抜けた様になっていた。最終的に俺と同レベルの進路 になったわけだ。結果だけ見ればそうなるが高良は勉強をほぼしないで入れたんだろうが俺は受験前は死ぬ程までじゃないがそこそこ努力はした。
華ちゃんが消えて以降は高良は死にかけだった。栗野以外は高良に気を遣っていた。一度他校生との合コンに高良を駆り出してみたが 高良は脱け殻だった。将来有望だよと女子に売り込んでやったらかなり可愛い子が高良に付いたのに直ぐ別れたらしい。 やれたか聞いたら「直前まで」という答えだった。直前までやっといて何でやらないのかが意味不明。
華ちゃんが死んだのかもなとは思っていた。死んだ子に操を立ててどうするんだろうか。他に出会いを求めて動く方が供養にならない か。生きている者は幸福になる権利が有る。
そうは言っていても華ちゃんがもし死んだなら一因として俺や高良が出て来るのは間違いないかも知れなかった。華ちゃんに嫌われて いたとは思わないが死んだとしたら自殺を防げなかった事は確かだ。華ちゃんに関する一件はすっきりしないまま終わったから頭の片 隅には残っていた。
大学一年の時に高良を合コンに連れて行こうとしたら彼女がいるから駄目だと断られた。彼女がいても普通は合コンを断らないと思う んだが。東大生が一人入ると女子の反応が違うから来て欲しかった。高良は黙ってれば只の御坊ちゃま君だった。中身は良からぬが中 身なんか付き合ってみなければそうそうは分からない。着ている物もブランド品しかないから金持ってそうに見える。仕送りは平均額 とか言ってたが。
高良の大学の頃の彼女には会わなかった、会う機会も無い。写真だけ見せて貰ったが華ちゃんの二番煎じのような女だった。病気臭い 。同じ学部の子らしいから頭は華ちゃんよりだいぶ良いんだろうが 。高良が華ちゃんを踏襲した様な子を求めたんだか華ちゃんに似せ て作り込んだのか分からないが何か気味の悪い女だなと思った、写真で見た限り。後々そいつは高良のストーカーに変わるので俺の勘 は当たる。
就活は地元でやったので苦労しなかった。地元の企業分析は予めしておいた。都心部で就職して地方で転職を考えたら都落ちのイメー ジは拭えない。公務員の選択も有ったがI種を狙う動機が無い。遊びでは試験を受けた。行政を選択し倍率は100倍以上。教養は比較的簡単に思ったが専門試験はやはり難関だった。5000人受け て50人受かる程度。その内訳は東大生京大生が占める。高良なら 涼しい顔して受かったんだろうなと思い浮かべた。公務員試験を受けてみた話を高良にしたら「お前に公務員は向かない」 と切り捨てられた。知っている、何事も経験だ。
地元の経営コンサル会社に就職した。企業の中長期経営計画や戦略立案をしていく。IT技術の領域を担当する事もあった。 糞程忙しかった。社会人になってから女関係の出会いが激減した。 三つ下の彼女はまだ大学生、遠距離だった。
実家で暮らす気は無かった。実家から程々の距離を空けてワンルー ムを契約した。殆ど帰れなかったから家賃はドブに捨ててる様なも のだった。帰れば寝るだけ、人生で最も性欲減退期だった。人間多忙過ぎると食欲・性欲は失われるらしい。高校の時栗野が修行僧に なっていたが今まさに俺もその境地だった。 一年が経つのが早くなった。中身が無い。学生の時は曲がりなりに充実していたのだが。これが大人になるという事なのかと思った。
栗野は医師免を取得後に留学していた。確かカリフォルニア大のロス校か何かだったと思うが、行くにも頭が良いだけじゃ無理で五〜 六百万はかかると思う。研究留学なのか臨床研修かどうか知らないが事実上就労している形式だったはずだ。 栗野は現地の医師免が欲しい様だった。結婚しないとか言っていた が日系アメリカ人の女医と付き合っていた。
高良はコテコテの投資銀行マンになっていた。
先輩を通じて女の子を次々と紹介されるらしかった。高良は本社から地元に配属になって帰って来ていた。左遷されたのか聞いてみた ら株式の誤注文執行で400億の損失を出してこっちに帰って来たと、まことしやかに言っていた。これは明らかに冗談で逆にそれで巨額の利益を得たんじゃないかと睨んでいる。 高良は個人トレーダーを大学の頃からしていた。
奴らは予定調和感ありの華々しい人生を送っていた。スタートは似た様なもののはずが俺は人生にすでに飽きていた。
高校の同窓会になんか出たのは成り行きだ。その他の同級生を見て 安心したかったんだろう。奴らはショボい勤務医になっていたり早 稲田の文学部から高校教師になっていたりした。勤務医はともかく 高校教師は落ちぶれ過ぎている。俺は平均値より上ならそれで良い 。その程度で満足出来る。
うだつの上がらない話をうだつの上がらない奴らとしていたら酔って騒いでいるスペースが有ったので行ってみた。何で盛り上がって るのかが分かった。入江だ、と誰かが言った。
ワンピースの向日葵と紫陽花が目に飛び込んで来た。華ちゃんだった。顔が変わってなかった。
正直、衝撃だった。今までこの世のどこかにいたんだと思った。隣に言って話しかけようとしたらあっちから「こんばんは。初めまし て」と言う、初めまして?。華ちゃんは俺を覚えていなかった。ショックの後にそれならそれは好都合だと思いシラを切る事にした。
見た目は変わってなかったがもう少し昔よりは健康そうに見えた。 昔より小さく見えたのはこっちが伸びたからなんだろう、手が小さ いねとか言っておいて手や手首を握ってみた。やっぱ痩せてた。痩せてる子は嫌いじゃないが何にしたってガリガリ過ぎる。華ちゃん は首を傾げて少し恥ずかしそうだった。昔と全然違う。対応がマシになっている。
出席していない高良の話で引き付けて繋いでおいた。悔しい事に高良の事はバリバリ覚えている、元彼だから仕方ないが。しかも連絡 をまだ濃厚に取ってる様だった。華ちゃんは酔ってるからか「高良とテレホンエッチならこの前したよ」と衝撃発言をした。周りの男 共はそれで盛り上がり過ぎだった。その内容を聞く奴や華ちゃんに 連絡先を渡す奴もいた。華ちゃんは微笑で内容をはぐらかしていた 。連絡先は形だけ貰っても教えていなかった。「今度また会えたら教えるね、ありがとう」とか「機会があったら私から連絡するよ」 とか言って流している。別にそこまで可愛いわけじゃないが頭が悪いわけじゃないんだろう。よく笑ってて面白い、性格が良いからまあまあモテる子の典型だった。華ちゃんはこんな普通だったのかと騙されそうになった。
高良の未練にも笑えた。中学の時の初恋をここまで引きずれるのも珍しい。ここでここから華ちゃんと俺が付き合ったらめちゃくちゃ 面白い事になるだろう。丁度華ちゃんは年上の医者と不倫してて別 れたばかりだそうだ。医者の、しかもオヤジなんかに手を出すからだ。けっこう浅いんだなと思った。あれだけ高一の時点で男慣れしてたくせに。年を食うと割と普通になるもんだなと妙に納得しかけた。
周りの奴に「俺、華ちゃんと付き合うわ」と言っておいた。入江は止めておけとか高良とまだ付き合ってんじゃないかとかアレはまだ 病んでるだろとかヤリ捨てが最適と色々言われた。特に神経内科医やってる奴に「拒食か境界例だと思うぞ」と忠告された。何でも境 界例とかいう人格異常は特に男をコントロールする事に長けていて手がつけられない暴力性があるそうだ。
目的としてナンパしにも来ていたので飲んでなかった。この時はセフレを数に入れなければ一応フリーだった。大学の後輩の後に二人付き合っていた。一人は同棲したしもう一人とは婚約寸前までいったが消滅していた。大きな仲違いが有ったとかじゃないが最終的に縁が無かったんだろう。
華ちゃんに送るよと言ったら静かに待っていた。肩ぐらいに髪を揃えていて顔が半分隠れていた。待っている時の華ちゃんを遠目に観 察していると床の靴の先辺りをじっと見ていた、 その目が寂しそうな泣きそうな目だった。その時の華ちゃんはどう見ても昔と違い、何か可愛く見えた。
だが二人きりになったら急に昔の様な感じに戻った。キスしないのか聞いて来たり。華ちゃんは一人暮らしだった。部屋に寄っていっ て良いと言われたが一旦警戒しておいた。
翌々日に友達を間に入れて会った。カプリチョーザだったかに行った気がするが華ちゃんはアイスしか頼まずちっとも食わなかった。 それでも会計の時「一緒に楽しい時間を過ごしたんだから三人で割り勘する」と言っていたので好感を持った。アイス代なんかこっち で払ったけど一時期同棲してた人は一切自分は金払いません的な女で辟易していた。薄汚い感じだった。あれ系の人とは暮らせないし付き合いたくないと思っていた。
車の中でキスした。ある程度多彩なキス表現を学んだつもりの人生だが華ちゃんはレベルが高かった。甘噛みの連続の様な感じだ。唇 だけに留まらず耳にいったり首にいったりして来る。エッチの入り口でしておいて今日は泊まらないの?とか言って来た。
物は食わないがキスは上手い人は今まで見た事が無い。肉と酒が好きな女はキスが上手い傾向にあった。そういった基本情報が一回溶 けて消える。華ちゃんはこんな子だったと思い出して来た。
華ちゃんの部屋は女子大生の部屋の雰囲気だった。玄関でアジア雑貨の様な何かの香みたいなものを焚いていた。微かな匂いだから気 にならなかったけどあまり好きじゃないから消してと頼んだら直ぐ消してくれた。意外だったがタバコを吸うというから付き合うのならタバコは止めて欲しいと言っておいた。 華ちゃんは簡単に肯いて「いいよ」と言った。昔とは少しやっぱり違う様で言う事を聞く子になっていた。
シャワーを先に使って良いと言われたがシャワーはどうでも良いので服を脱がそうとした。お互い仕事帰りでスーツだった。華ちゃんは大学に通いながら塾講師をしていた。あの朝田さんと似た様な仕事だ。
「体に傷が有る」といきなり言われた。義理の親に刺された傷や何かが有るという話だった。思っていた以上にヘビーな話で何も言えなかったが、それであらゆる事柄が確認出来た気がした。それなら普通でいられるわけがない。華ちゃんが普通じゃないのはそれで分 かった。電気を消していたからあまり傷は見えなかった。その時部屋が明るくて見えていたら出来なかったかも知れない。酷いとか酷 くないの話じゃなかった。段階を踏んで華ちゃんの今までの時間を知っていった、知っていった気になっていたわけだが知り尽くした と思った時には婚約していた。
華ちゃんが住んでいた部屋は四部屋しかないアパートで内三室が空き家だった。周囲の喧騒は無くて静かで落ち着けた。その頃実家で 妹が親に暴力を振るう様になっていたから実家に戻っていた。 俺がいる事で妹を牽制出来ていたわけだが、母親がプライベートに口を出して来るのが苦痛で仕方なかった。携帯を勝手に見られるのでパスワードを設定していた。付き合っていた人に母親が電話をかけていた事も有る、面倒過ぎた。
華ちゃんの家に避難する様になっていった。週に三日位は行って泊まっていた。段々と華ちゃんの体の調子というか精神状態が悪いと いうのを知っていった。
それはヘビーだとかの形容では表し切れない事だった。大学病院の精神科で華ちゃんの主治医から説明を受けた。多重人格なんてビリ ーミリガンだかの本でしか知らない。あれは一応読んだ事が有るが 今一つ意味が分からなかった。

: side C /thirties-a

華ちゃんと付き合って以降の毎日は異常な事の連続であまり覚え ていられて、いない。
父は結婚したいと言ったら無関心だった。母は誰を連れて来ても粗探しするだろうから「俺はこの子と結婚したから」 と事後報告的に示した。婚姻届の証人は父と華ちゃんのお姉さんだった。結婚式は念頭に無かった。大体にして仕事が忙し過ぎた。
華ちゃんのお姉さんには「本当に良いのね?結婚したら最後まで面倒見るしか無いよ」と言われた。「華ちゃんが良いので」 と応えた。お姉さんは華ちゃんの病気を知っていた。病院にも話を聞きに行っていた。だが積極的に治療を勧めるという構えでもなか った。お姉さんは義理の親が来てからの記憶を喪失する事で人格に異常を来さなかったそうだった。
華ちゃんのその義理の親には会った。結婚の挨拶ではない。そんなものをそいつにする必要は無いからだ。だからただ会っただけだ。 俺はそいつを目にしておくべきだと思った。華ちゃんのお母さんにも会った。一応普通に焼き肉をご馳走になったが、そこは華ちゃん の実家では無いそうで意味がよく分からなかった。華ちゃんは小学生の頃一時的に養女に出されてもいたらしい。そのせいかお母さん は華ちゃんに無関心だった。その応対の仕方を見て俺は華ちゃんを守って行かないとならないと思った。義理の父に当たる人だが見る からに頭のイカれた感じだった。説明しようが無いのだがどっかの店でたまに店員にキレて怒号を上げて警察呼ばれる様な人がいるが 、あれ系。煽り運転と暴力沙汰で捕まってニュースに出る様なタイプと言うと想像し易い。俺にも理由無しにキレて来たが華ちゃんが 固まってるから何もしないし言わないでおいた。「はあ…。」 としか言いようが無い。華ちゃんのお母さんはその場で無関心だっ たから華ちゃんが虐待されてる間も無関心だったんだろうと考えが至った。
虐待の内容は華ちゃんの為に深く掘り下げて書きたくない。病院で聞いた限りでは一番酷いのがやはり性的虐待だった。性的だが身体 的虐待と混同した内容だった。大抵の事には何も感じない俺ですら、おぞましいという感想が出たのだから子供の内にそんな事が有れ ば死ぬ人の方が多いんだろう。怪我が元と言うより例えば人を殺す事で自我を保つとか、そっち方向に行くんじゃないだろうか。
所々華ちゃんの記憶が抜けていて無いのは救いだが華ちゃんじゃない華ちゃんの人格の幾つかはそれを記憶していた。ややこしいが華ちゃんは、そうした事件があった時は気絶していた状態らしい。 その間の記憶を引き受けていた人格がいて、そいつは華ちゃんじゃないそうだ。おぞましい記憶を共有している人格は他にもいるのだが華ちゃんには記憶が無いし華ちゃんはその人格の存在も知らない 。
だから言葉が変わるのかとか表情が変になるのかと、すっきりしたと同時に更にすっきり出来なくなった。華ちゃんは人格が入れ替わ ると記憶を失くした。他の人格というのは名前を名乗る場合も有ったがケケケと笑ってたりするだけだったり、相当怖かった。 なるほどね、と思って見ていたのだが人に話すには色々と度が外れた事で話せなかった。可笑しいかも知れないが俺はそうなっている華ちゃんが、大事な存在だった。対峙した人格によるが稚いとか儚いだとか愛おしいだとかの感想を持った。無気味だろうが生きようとする為に発生した人 格なわけだから全てが華ちゃんなんだから何とか生きて行かせるしかない。
高良が知ってたのかどうかだが、知らなかったそうだ。高良にしか話せそうにない。高良には華ちゃんと付き合う事になってから高良 の元カノだっけという顔すら見せずに今こんな子と付き合ってると言ってやった。高良はいつも通り何の事を考えてるか分からない顔をしていた。「そうか」と言っていた。もっと泥々した顔を見せ てくれれば面白かったのだが。それで高良に華ちゃんについて相談を持ちかけてやった。別に高良が本気で嫌いなわけじゃないが昔高良に利用された様に今度はこっちから利用、いや活用してやると思っていた。高良を活用、役に立つから。華ちゃんがなかなか妊娠しないんだよねと教えた。華ちゃんに子宮の病気や奇形が有る事も高良は知らなかった。高良が華ちゃんと付き合 っていたのは中高の時でしかない、華ちゃんの病気に向き合えてい たとは思わない。それに向こうから俺を利用して来たわけだから仕返して当然だ。高良を追い詰める事なんか華ちゃんが絡んでいなければ不可能だったろう。
高良の事はともかく華ちゃんの頭の病気は深刻だった。暴れる人格もいた。そいつになると女の力じゃなかった。早い段階で統合、統 合とは華ちゃんに溶ける形だがそれになってくれて助かった人格だ。何で暴れてたのか動機が分からないままだったがそいつは受けた 暴力をそのまま出す様な人格だった。俺は最初に敵認識されてそいつに顔を殴られたのだが口は切れたし後から聴覚に異常が出た。それくらいの力だった。殴られて首が横に振れるくらいの力。女に殴られたのは実は初めてじゃないが、あんなのアリかって力だった 。しかも病気で痩せている華ちゃんが、だ。人間の筋力は思ってい るよりは大きい。人格は違っても体自体が華ちゃんなので抑えるし か道が無い。あの時は殺しそうになった。顔にコンビニのビニール袋を被せて首の所で縛って酸欠にさせて抑えた。 意識が無くなると華ちゃんに戻った。一つ違ってたら殺していたと思うがそれならそれで仕方なかっただろう。 運が良かったのかもだった。だが華ちゃんの意識上では俺が華ちゃんに暴力を振るった形になる。 他人格というのは卑怯で急に華ちゃんを押し出して来たり、都合によって華ちゃんの意識を潰したりする。内部で人格が犇めき合って暴走している感じだ。華ちゃんは気付いたら俺に袋を被せられて首まで縛られていたわけで、しばらく頭を撫でようとしても怖がられた。この頃は何かもう世の中の常識とかが崩れ去っていた。華ちゃんを止めないと俺が殺され てただろう。DVが何たらと外から見てるだけの高良なんかに言われたくない。高良は傍観者でしかない。高良は華ちゃんが自殺しようとしていたらちゃんと対応出来ただろうか。高良だったら例えば華ちゃんが風呂に水を張って頭を突っ込んで窒息しようとしていた時に多分そのまま殺した気がする。楽にしたいとか短絡化した思考になる気がする。高良は真面目だからだ。はっきり言って精神障害のある人に真剣に向き合ってたらこっちが病気になる。俺が真剣じゃなかったわけじゃないが実家に頭のおかしい母と妹がいたから、 ある程度は慣れていた。流し方も。
色んなプレイをさせてくれる可愛い子の人格もいたが、それで結婚したわけじゃない。俺は要は暇だった。仕事して帰って寝るだけで いつか結婚して子供が出来ても仕事して帰って寝るだけが続く人生 。で、あっさり死ぬ。その間浮気したりするかも知れないし奥さん になる人が母と嫁姑の戦いを繰り広げて面倒になり適度な距離を保ち誰からも逃げるだろう。こんな人生は糞だ。
華ちゃんといると起きる全てが非日常だった。生きてる感覚を味わえた。スリリングと言ってしまうと陳腐だが生きるか死ぬかだった からだ。華ちゃんが生きるか死ぬかだから。華ちゃんの精神や存在は言い表してみると真っ白い。それがこの世で起きた事、良い事にしろ悪い事にしろを白い部分に色で出して行く様な感じだ。 だから華ちゃんは絵を描くのだろう。白い元の精神に戻してやりた いと思っていた。
高良に俺は性欲に関しては病気だと言われた事が何度か有る。華ちゃんと結婚してから休みの日は三、四回していた。平日にしても自 宅に帰れる日は必ず二回はしていた。会社に泊まりになる日は一度やりに自宅に帰った。華ちゃんがさせてくれるからだが、 やらないと仕事にならない。時間が無ければ俺は何もしなくて良かった。玄関で立ったまま抜いて貰うか、シャワー次いでに浴槽に座っていれば華ちゃんが洗ってくれながら抜いてくれる。疲れていて睡眠不足の時はベッドに横になっていれば意識が朦朧とした中でも華ちゃんがマッサージしながら抜いてくれる。言って仕舞えば幸せだった。
それが華ちゃんの所業なのかと言われたら違う場合もあった。他人格で「ミキ」と呼び捨てして来る人格だ。華ちゃんには結婚してか らも君付けで呼ばれていた。呼び捨てする人格は高校の時に会っていた。そいつは俺の事を覚えていた。「あなたの事は覚えている」 と言われた。「69しましょう」とか普通に日常会話の中でいきなり言い出す。騎乗が半端無く上手かった。 顔付きが全然華ちゃんとは違う。それで華ちゃんをバカ呼ばわりしていた。高良の事も認識して記憶していたが高良に対してさえもバカ扱いしていた。「あの男は我慢が利くから我慢させると凄く良いの」みたいな事を平気で俺の前で言っていた。しかも俺の指や何かを咥えながら言いやがる。俺は我慢が利かない男と言われているのと同義だが俺はこの人格は結構好きだった。
華ちゃんは薬漬けだった。薬のシートから何錠も破って飲んでいた 。薬を減らし始めたのは妊娠してからだ。妊娠については子宮奇形 で妊娠しにくいと婦人科医に説明されていた。 子供が出来たと華ちゃんに報告された時、俺は違和感を持った。勘が働いた。その勘は半分当たりで半分外れていた。華ちゃんが俺の前に付き合っていた脳外科の医者の子だと感じた、華ちゃんは誰かと会っている気配がしていた。俺が出張でいない時にだと思うのだが。華ちゃんの携帯は見たけど尻尾は掴めない。華ちゃんの携帯を見る事に罪悪感は無かった。その頃華ちゃんは専業主婦だったから俺が携帯代を支払っていたし華ちゃんは頭の病気だからだ。精神障害の中でも重度の認定だった。日常生活内で介助が必要。放置しておくと突然変な電話が知らない男からかかって来たりした。

 

:side C /thirties-b
仕事中によく電話が来て「苦しい、苦しい」と華ちゃんは言った。 今まで飲んでいた薬を飲まない様にする事がそんなに難しいとは信 じ難かった。
初期には俺も苛ついて華ちゃんに冷たく当たる事が頻繁に有った。 電話に出ないとか。華ちゃんは夕飯が作れない状態が続いた。とな ると外食になるか実家で食べるかになる。華ちゃんは夕飯だけでな く一日中寝ていて朝も昼も食わずせいぜいパウチの梅粥を食べる程 度だった。
病院では薬絶ちの指導は無かった。多剤を処方しておいて無責任だ った。院内の患者相談室にクレームを入れてみたが意味は全く無か った。
妊娠中だからでなく華ちゃんは薬絶ちのせいで変になっている様に 感じた。他の人格がどうなってるかとかじゃなく他の人格の方が素 面な気がした。他の人格は妊娠もしてないし妊娠した身体の認識も 無いし薬剤を多用した意識が無いんだから当然だ。主人格の華ちゃ んは狂っていく一途だった。
自殺未遂をよくやっていた。十回目位になると「またか」程度に麻 痺してて感じた。心臓近くを切ったりしていた。血はボタボタ垂れ て出てたけど死ぬレベルじゃない。俺はそれに対し治療しなかった 。してやる時も有ったけど何で俺を置いて死のうとした人を治療し てやらないとならないのかと。治療するにしても嫌々したし文句も 言った。大抵は血だらけなのは上半身だけだから普通にスーツだけ 汚れない様に脱いでからやって寝て、その日が過ぎて行った。普通 に血塗れの胸を揉んだりしていた。昔の華ちゃんといる時は頭がお かしくなっていた。華ちゃんは朝起きたら自殺未遂の事を忘れてい たりした。他の人格が手当てを終えている。自殺未遂で傷を付けた 人格も別だという事。華ちゃんはバカで無邪気で可愛い、忘れてて 甘えて来て膝に乗って来たり抱き付いて来たりもする。時間さえ稼いでおけば平和。
妊娠中なわけだから安静にはさせていた。プリンとコンビニのおで んは口に押し込めば多少は吐かずに食っていた気がする。産婦人科 の健診にも連れて行っていたしマザークラスとか病院の指導にも一 緒に参加した。
結婚生活の中で最も安らかに過ごせていた時期に思う。邪魔が入ら なかったというか。華ちゃんは俺にしか頼っていなかった。友達に 連絡を取るのもほぼしていなかった。外出も無かった。高良とも。 メールはしていたが会っていなかった。
高良が華ちゃんを気にしているのは知っていた。二人のメールも華 ちゃんの携帯を見て読んでいたが高良は友達から逸脱した内容を華 ちゃんに書いて寄越す事は無かった様だ。もしかすると華ちゃんが 内容によっては高良からのメールを消していたのかも知れないが。
華ちゃんの腹の中にいるのが誰の子供なのかを考えない様にはして いた。一番可能性が有るのは俺の子供だし。この時点に於いては高 良の子供なんて事は思ってもみなかった。後に離婚の話の中で俺は 無精子症だったと分かる。華ちゃんが勝手に検査キットを専門機関 に送って調べていた。それについても一悶着有ったがここでは省く 。しかし何らかの感染症の既往も無いし何でだろうなとは思った。が、欠陥とは感じなかった、だから特に治療もしていない。今の所 は利点しか感じない。それは子供を欲しいと思う動機が失せたから だ。以前は普通に子供を持つ将来だと思っていたし女の子なら育て てみたかった。男なら要らなかった。 俺に似た男なんて寒気がする。父がこの思考だったのかも知れない と今は思う。あの無関心さを窺うと俺の存在は厭悪だったのかも知 れない。俺の価値観が変わっているのは分かっている、こんなだから子供を持たない人生なんだろう。
華ちゃんはガリガリのままで腹だけ膨らんでいった。そういうもん なんだろうと思っていたから何とも感じなかった。体位さえ気を付 ければ可能だったから支障は無い。別に華ちゃんは断りも嫌がりも しないし、仮に仕事が詰まっていて帰らないと電話が来た。 用事は直で「今日は抜かなくていいの?」だった。 声が華ちゃんと同じだから、あれが華ちゃんだったのか華ちゃんじ ゃない人格だったのか今でもどっちでも良い。高良の様にいちいち 気にする繊細さは俺には無い。人格が複数有る障害の人と納得して 結婚したんだから気にするエネルギーなんかその度に使う必要は無い。
子供は急に産まれて気付いたら俺の子供として目の前にいた感じだ 。大体の男にとってはそうなんじゃないかと。自分で産むわけじゃないから。子供は寝てるだけでほぼ泣かない。友達の子供はギャー ギャー泣くタイプだったから赤ん坊にも当たり外れが有るのかと思 っていた。名前は華ちゃんが付けた。子供の名をここでは紅ちゃんとする。
はっきり言って俺は紅ちゃんにノータッチだった。まだ喋らないか ら遊べないし。華ちゃんが「抱っこしてあげて」としつこいから、 たまに抱っこはした。おんぶは一回もした事が無い。
仕事では出張が続いた。二週間単位だった。東京・大阪が多かった 。人生で最も真面目に働いた時期だ。出張中はホテル暮らし。執行役員は微妙な立場で経営には口を出せない。幹部の良い様に使われ るだけだった。朝九時出勤して夕方仮眠して朝三時四時迄仕事、 それが普通。下手すれば朝六時迄ぶっ通しで仕事、 また三時間後に出勤。ブラックも良い所だ。 新卒が一年保たず辞める。虫の様に働き続けてそれでやっと手取り が六十程度。糞過ぎた。遣う暇が無いから金は貯まるが、 やっていられない。よく倒れなかったもんだと思う。転職した今は 年収が半減したが体はひとまず楽だ。だが能力も半減した様な感覚 に捉われる。それは辛い。
二週間華ちゃんと会えないので自力で抜くしかなかった。一人です る概念があまり無い人生だったので新鮮と言えば新鮮。風俗は大学 時代に一度興味が有り社会科見学的に行ってみたが金を払って迄やる意義が理解出来なかったし支払った瞬間、殺伐とした。
浮気は念頭には無かった。これは自信が有る。しかし何でだったの かはよく分からない。
家に帰ってみると紅ちゃんがいるので華ちゃんは当然ながら紅ちゃ ん優先になった。出産して五日で退院だったから直ぐ出来るかと思ったけど一ヶ月経たないと無理と聞いて、なるほどねと思った。奥 さんの妊娠中や出産後に浮気する奴が多いのも肯ける。華ちゃんの 場合は口でしてくれたので問題無かったが、そうでなければ浮気した。死活問題だ。他の男がどうかは知らないし女側から見ればアホ らしいだろうが真面目に体調が狂うのでレスは無理。 浮気か離婚の二択だ。その点華ちゃんは一ヶ月待たないでさせてく れたし内容も多種だったので飽きなかった。 夫婦生活は上手くいっていた。
紅ちゃんが歩いたり喋り出す様になると関わりの持ち方が分かって 来た。何も問題は無かった。
だが、そう思っていたのは俺だけらしい。華ちゃんが占い師の仕事 で働き出して生活費の面で俺より稼ぐレベルになって来たら、 だんだん歯車が狂って来た。今迄は頼られたけど華ちゃんの意識が 自活に向いたというか。高良に入れ知恵されたんだろうと思ってい るが。
頭の治療が進んだせいも有るかも知れない。俺に言い返して来たりだとか我儘になって来た気がした。俺は華ちゃんが一生病気だった ら良かったのにと思った。
華ちゃんが癌になった事を高良に責められた事が有る。華ちゃんに 過度なストレスをかけたと言われた。それよりも華ちゃんの健康を 疎んじたからだったかも知れない。けれど今の高良が華ちゃんの病 気を歓迎している様に見えるのは、俺の視界でだけだろうか。高良 も華ちゃんが病気で家から出られず高良に頼る環境を喜んでいるんじゃないか。
高良と華ちゃんが不倫していたのは寝耳に水だった。だがショック とかいうよりは、やっぱりねという感想だった。不倫の気配には気 付かなかったが分かってみると腑に落ちた。紅ちゃんが高良の子供 だったのは流石にどういう事なのか最初から説明を求めたが高良が 本当に一から説明を始め、聞いている内にどんどんどうでも良くなって来た。
華ちゃんにDVをやっていたかどうかだが、これは否定したい。世 間ではDVになるんだろう。が、華ちゃんは違うと言っているし俺 も違ったと思っている。華ちゃんに望まれた事。 華ちゃんの病気の中での修羅場への対応。華ちゃんへの愛情表現。 高良に責められたくないし何も知らない人にも色々言われたくない 。周囲の誰もが理解出来ていないとは思う。俺の実家もそうだし友 達もそうだ。高良の親も真実は分かっていない。華ちゃんのお姉さ んは唯一中立だ。
嫌になる位に立て続けに変化が起きた。華ちゃんが手術して失敗し て死んだと思った時、俺には何も無かった。生きる意味とかが。何も。いつも通り仕事していて午後の何時だったか、高良のお父さ んから連絡が来た。高良からじゃない。華ちゃんが危篤になった/ 高良が紅ちゃんを連れていなくなった/行き先を知らないだろうかとかの連絡だった。高良が何で俺の携帯番号をお父さんに伝えてい たのか、俺は華ちゃんに何か有ったから「お前も死ね」と高良に言 われている気がした。
自殺に意思は必要無いんだなと思った。体が勝手に動いて死のうと した感覚だった。華ちゃんが過去にそうであった様に。華ちゃんは体が動くまま自殺自傷をやってたんだと分かった。死のうとした寸 前に華ちゃんの手の幽霊の様なモノも見た。死ぬか死なないかの瞬 間は何か気持ち良かった。アレをもう一度やれるならやりたい。死に救いは有るとまだ考えている。
首を吊り脳に損傷が出て、ある程度今は回復はしたが話せなくなっ た事に関しある人に女遊びし過ぎた罰だと言われた。罰とは何か考えたが分からず終いだった。受け流したつもりなんだが言われた感 情としてはやっぱりムカついたんだろうと思う、その日の夜に車でガードレールに突っ込んでみたが怪我は殆ど無く事故処理が面倒臭 いだけだった。高良に連絡したら所轄警察署と保険会社に連絡したりと手続き代行は黙ってしてくれた。話せない事で生じる面倒は高 良が肩代わりしてくれる。「世話かけるな」 と言われただけだった。
高良が死ぬ程面倒臭がる事をしてやりたいが今の所は思い付かない 。奈々ちゃんと付き合いかけた事も有るのだが高良に逆に後押しされた。奈々ちゃんも高良への当て付けの感情が有ったろうから後押 しされて拍子抜けしたんだろうと思う。一回寝たけどお互いそれだけで知り合いに戻った。その事に関する華ちゃんの気持ちは分から ず。
殺してくれと高良に言ってみた事も有る。完全犯罪の方法なんかは 高良の頭脳なら幾らでも捻り出せるだろう。「 殺すには異存無いが華が悲しむのを見たくない」という答えだった 。高良にとっては一に華ちゃん二に華ちゃんなんだろう。「生きる 方がお前にとっては辛いだろうから存分に生きれば良い」と言われ た事も有る。高良は俺に慰謝料以上の慰謝料を支払っているがそれ は俺を苦しませる為の時間を買っている感覚なんだろう。残念だが 高良が期待しているよりも俺には思考する癖が無い。反省するタチでもない。
それより俺が華ちゃんの近くである程度、満喫した生活を送るのが高良にとっては嫌だろうと考える。それでも華ちゃんが幸せだと感じていれば高良は満足なんだろうが。
仮にだが高良が華ちゃんより先に死ぬ事が有ればまた華ちゃんと結 婚出来るなと思う事が有る。華ちゃんは絶対断らないと思う、同情にしろ何にしろ。嫌われているとは高校の時と同じで今も全然思えない。